ひさしぶりに会う沖田さんは相変わらず涼しい顔をしていた。街中の人間がだらしなく汗を流している中ひとつも汗の粒を浮かべていない姿には感動を通り越して怒りを覚えたくらいだ。白い肌は太陽光線で薄く焼け、健康的に頬を染めている。通り過ぎていく女の子の視線が自分を無視して沖田さんを捉えているのがよくわかっていつものことながら悲しくなった。 とりあえず腹ごしらえできるところに行こうということになって駅のすぐ近くにあるファミレスに向かった。昼時分ではあったが寂れた地元の駅だ、客も近所に住んでいるだろう暇を持て余していそうな初老の紳士や噂話をするために集った主婦くらいしかいない。すぐに好きな席を選んでメニューを伝えるために店員を呼び出した。大体この店で食べるものはいつも決まっているのだ。 「沖田さんは夏休みなにしてんですか、ちゃんと勉強してます、」 「別に、なんも。山崎ィ、お前は、」 「おれはバイトばっかですよ。たまに大学の友達と遊んだりしてますけど。」 「へー、そう。」 沖田さんは興味なさそうにストローの先を齧りながらずびずび音をたててオレンジジュースを飲み干した。なんてわかりやすい人なんだろう。沖田さんの心を惹きつける事柄はお姉さんのことと近藤さんのことと土方さんをどうやって亡き者にしてやろうか思案することくらいしかない。それ以外はきっと沖田さんにとってはぼんやりとフィルターがかかっている曖昧な世界なのだ。けれど呼び出したらこうしてついて来てくれるのだから少し勘違いしてしまいそうになる。 しかし沖田さんは少し変わった。最後に会ったときにはなかったはずの銀色の指輪が沖田さんの右手薬指に堂々と鎮座している。当たり前のように存在しているそいつに多少腹が立ったが、同時に背中が冷えていく思いがした。以前から懇意にしている女性がいると少し前に土方さんに聞いたことがある。なんでも沖田さんよりも10も年上の女性らしく、関係も健全なものではないという。きっとその女性があげたのだろう。なにを思って沖田さんにそんなものをあげたのか考えると恐ろしい気持ちになった。 「彼女と会ったりはしてないんですか、」 「だから彼女じゃねェって、」 「でも、指輪、」 「心配らしいぜィ、」 君はすぐどこかにふらふらして行っちゃいそうだから、と彼女の口振りを真似しながら沖田さんは言う。こんな迷惑なことがあるかィ、ねェだろ、迷惑そうにそう言う沖田さんには悪いけど少しだけその女性に共感して少しだけ同情した。沖田さんはいつも無関心で口汚くてでもきれいな顔しててすることなすことがいちいち男前でこれじゃあいつどこの鳶に持っていかれるか気が気じゃないだろう。と言っても自分はもうその鳶にまんまと掻っ攫われているわけで今更どうこうすることもできないけども。 「まあ彼女の気持ちがわからんでもないですけどね、」 「はァ。」 沖田さんはもうこの話に飽きたのか、フォークでがちゃがちゃ音をたてながらハンバーグに噛み付いている。セットでついてきたナイフなんかは最初からそんなものついていませんでした、というように目もくれてやらない。そういうがさつなところがまた男らしいなあと思った。見かけがきれいだから仕草なんかもそうなんだろうと思うけど案外言葉遣いや箸の持ち方やらが適当だったのを見て、ああこの人も男なんだなあとしみじみと感動したことを覚えている。きっと自分を含めて沖田さんの周り集まる人間は結局のところ沖田さんのそういうことろに惹かれて執着しているのだろう。沖田さんに黄色い声援を送る女の子の気持ちがわかるような気がして、同時に自分のどうしても救われないだろう立ち位置に少しだけ悲しくなった。 |