頭からべっとりと血を垂らして沖田は立っていた。右手には血を吸って真っ赤になった沖田の愛する人斬り刀が握られている。沖田は人を殺す時のみ水を得た魚のごとく覚醒する人間だった。今日もそうだった。一体幾つの命をその痩せた胸に隠しているのか命を惜しまずに敵陣をでたらめに走り回ってしかし正確に殺した。斬った本人が途中で数えるのに飽きてしまったのだから正確な数こそ把握できないがとにかく沖田の走った後には人がごろごろと落ちていた。その骸の中で沖田は立っていた。 山崎はそれを遠巻きにじっとり舐めるような視線で見ていた。しなやかに動き回る沖田の背を追って振って斬って掃く刀とそれに捨てられる人間を見た。見事に裂かれた切り口は鮮やかな赤をにわかに放出して沖田を染めていく。なんということだろうか、山崎は思った。覚醒した沖田は肝が冷えるくらいに恐ろしい人間ではあったが同時に見惚けるほどの逆らえない魅力があった。少なくとも、山崎にはそう感じられた。 「山崎ィ、」 真っ赤に染まった沖田が山崎の名を呼ぶ。水、今すぐにくれ。そう言葉を放って沖田は開いていた瞳孔を閉じた。水を求める沖田が山崎に向かって足を進める度にぽたぽたと額から血が垂れて落ちていく。山崎ぃ、ぽたぽた。水、ぽたぽた。山崎は静かに返答したが沖田の白い肌と赤い血液との素敵なコントラストに目が釘付けとなって足が動かなかった。これほど鮮血の似合う人間もなかなかいやしないだろう。そう思って山崎は今日何度目になるかわからない身震いをした。 |