迎える気だるい朝。
ふと目を覚まして隣で静かに寝息をたてる男を認める。
途端頭の天辺から足の先までさあ、と冷めていくのがわかった。
昨夜この男に平気で体を預けて更には求めた自分を呪い殺したい気持ちになった。
嗚呼、こいつになんて抱かれた私はなんてばかな女なのだろう。
然様なら。

(だってねえ土方さん。
私は厳格で意固地でそれなのに優しい心の貴方に惹かれたの。
にこりともしないあの仏頂面が好きだったの。
でも、ねえ、土方さん。
貴方の平和呆けした寝顔なんて見たくなかったのよ。
眉の下がった鼻の下の長い貴方の面なんて。
きっと酷い奴だろうと思っているでしょうね。
ごめんなさい。でもそう思ってくれて結構だわ。
だって私は事実酷い奴だもの。
お願い。何もなかった頃に戻りましょう。
そして貴方は私の好きだった仏頂面に戻って。
お互いそれがいいわ。それがいいのよ。
ねえ、土方さん。)

2007/07/14 散らん椿・土妙


(土方さんが誰かに懸想しているらしい。)
という噂が俄かに隊内に広まった。
誰だ誰だとみな唸っているが、まさか、正気か。
あいつの日々を見ていたら一目瞭然じゃあないか。
土方は敬愛してやまないてめえの隊長様の女に懸想しているのさ。

とは言ってもあの女。
隊長の女と言ってはみるが、全くなびく様子もなく更には痛烈な悪態。
なじる言葉からは憎たらしさが滲み出て饒舌に捲くし立てやがる。
近藤さんもなんであんなんがいいんだか。
おれには全くわかんねェや。

しかし、土方だ。土方は違う。
どれだけ自分の入り込む隙間があろうとも惚れた女と憧れた男とじゃあ後者をとる現代にあるまじき抜け作だ。
ばかじゃねえの、と思う。
そこで奪いに行くのが男なんじゃねェの。
ていうかそれが定石じゃねェの。
昔の契りに縛られてるなんて、あゝ、つまんねェ。
心底つまんねェやィ、土方なんて。

(とは言っても、考えてみる。
惚れた女に触れない男の心情、つまりそれは蛇の生殺し。
指1本、昔たてた忠義の所為で触れることもできない鉄仮面の素顔。
あゝ、土方さん。なんて痛いんだろう。
あんまりにも痛すぎて涙が出てきちゃった。)

(いやいや、
このまま苦い恋を心中に抱いたまま悩み死んでいったくれたらいいなんて。
そんなことこれっぽっち、砂ほども思ってやいやしませんってば。ねェ。)

2007/07/14 とは言ってはみるが・土妙と沖田