阿部くんはこわくてたまに泣きたくなるけどでもほんとうはかわいいひとだということを知っている。たとえばすっぱい食べ物が苦手だとか(だってこないだ梅干やだって言ってたし)、休み時間にねむそうにぼんやりしてたりだとか(前に教科書借りに行ったとき)。
あとつむじとかなんかこどもみたいだし(うしろからだとこわくないから見れるんだ)、耳の形もまるくてやわらかそうだし(ちょっとさわってみたい気もする)、爪とかいつも深爪でまるくなっててちょっとかわいい。
そうだ、阿部くんはこわいひとじゃなくてかわいいひとなんだ。

そう言ったら阿部くんは急に照れてしまった。

「おまえ、そういうことふつう、本人に言う、」
「だって、そう思ったから、」
「だから、思ったからってそう簡単に、」

阿部くんは言葉を途中でにごしてなにも言わなくなってしまった。けれどほっぺたがあかいままだから怒ってないことはわかる。むしろまだ照れてるんじゃないか。きっと照れ隠しのつもりなんだ。こう見てると阿部くんがふつうの高校生に見えておかしくなった。いつもはあんなにしっかりしてこわいひとなのに。
ほら、だからやっぱり阿部くんて。

「かわいいね、」
「だから〜、」

しっかりした阿部くんもすきだけどかわいい阿部くんもすきだなあと照れ隠しに怒る阿部くんを見てぼんやりそう思った。