女子のスカートの中身がなんであるか知ってしまっている自分はもしかしてものすごくかわいそうな人間なんじゃないだろうかと思う。近藤さんや山崎みたくまだ致したことのない情報ばかりに左右されている男子だったら日々あれやこれやと妄想を膨らませて青春を謳歌できたのに。山崎が「沖田さんはまったく耳年増なんだから、」と言って呆れるが、自分はこの身をもって経験したことを言っているだけだからそんな風に言われるのは非常に心外だ。山崎のくせに。調子に乗りやがって。

「さっさとやっちまえばいいのに、」

どうやら最近意中の子ができたらしい山崎は、今日もあいさつをしただのメールをしただの暇さえあればきゃあきゃあ女子みたいに騒いでいる。なにがそんなに楽しいのか理解できずにぼんやり教室の窓から廊下を歩く女子の足を眺めながらそう言ってやったら、真剣に「俺は清く正しい交際がしたいんです、」と言われた。男女交際に清くて正しいことなんてなんもねェよと返してやったら、あります、俺は真剣に彼女のことが好きなんですから、とこれまた一体どこの真人間だ、というような答えが返ってきた。

「俺だって男です、彼女とそういうのしたくないとは思いません。でも、そういう関係以前に俺は彼女と心で通じ合いたいんです、」

漫画やドラマの中でしか聞かないような台詞を簡単に真顔で言ってのけた山崎に正直驚いた。廊下を歩く人に合わせて右往左往していた視線を慌てて山崎に合わせると今日には珍しい流行らないような純情を目の中に宿して山崎は真っ直ぐに自分の目を見ていた。本当にそう思ってんのかィ、半ば呆れながら聞いてやったら笑ってくれてもいいです、と言われてなにも言えなくなってしまった。

そう山崎が言ったと同時に鳴ったチャイムのおかげでこの会話は切り上げられたが、授業中、気もそぞろに純潔の山崎と絡まる体液と湿度の伴う行為、そこに特別な感情なんかなくてもそれは成立してしまうことを知っている自分は果たしてどちらが幸せなのだろうかと考えていた。それは誰の目から見ても明白だ。そう思っていよいよ自分は本当にかわいそうな人間なのかもしれないと思った。もしあの夏の日に降りかかった不幸がなかったなら自分も山崎みたく清純な気持ちで女子を神聖なものとして扱うことができていたんだろうか。それとも自分には最初から無理な話だったのだろうか。

ここまで考えてきりがない仮定の話に段々ばからしい気持ちになってきた。やめだやめだ。自分は確かにあの夏の日に永遠になにかを失った。そのなにかがなにかなんて具体的なことはわからないが自分がかわいそうであることに変わりはない。そうだ、自分は一生捩れに捩れた感情を引きずって生きていかなければならないのだ。ただそれだけの話だ。




(あの日は暑い夏の日でした。僕は隣の家に住むお姉さんに誘われるままに家に招かれ、そしてあっという間に組み敷かれ、ただ絡まる粘膜と揺さぶられる度に開花していく感覚に身を任せていました。僕はお姉さんがくれると言ったアイスクリームを心待ちに訪ねて行ったのに。
真新しい畳に背を預けている僕の鼻先を干草のかすかなにおいがかすめていき、それは麻痺した下腹を咎めるように鼻腔に染み入りました。目の前はあふれ出した涙でぼんやりとかすみ、しかし確かな感覚が僕を責めておかしくさせました。
やめてほしいと息も絶え絶えに訴えたら嬌声まじりにもう少しだから、と言われて僕はどうにかなってしまいそうな意識の中、ただアイスクリームのことを考えていました。それから少しだけ姉上のことを思って、死んでしまいたい気持ちになったのでした。)