遮るものがなにもないアスファルトの上に阿部は立っていた。照りつける太陽光線は頭上を目掛けて降り、じりじりと肌を侵していく。額からはとうとう汗が流れ、それは頬を伝って顎の辺りで一時留まり、またすぐに流れて地面に落ちた。雲は全て姿を消して、見上げた空はただただ青一色だった。 とにもかくにも、今日は猛暑だった。 白いシャツは光を反射して目を焼く。阿部は逆光に眩んで目を細めた。苛立つくらいの熱気が地面から湧き上がり、厚い空気の層が阿部の体をじっとりと包んでいる。阿部は体の自由を奪う湿気に狂いそうになって、しかし、ふと、睨みつけた先に三橋を見つけた。 遠くに見とめた三橋の髪は光の中金糸のように揺れて、白いシャツはさらに阿部の目を焼く。しかし、日に焼けた肌は阿部の目に優しかった。 (ああ、すきだ、) 何の前触れもなく阿部はただそう思った。そう思って、すでに思考が三橋に殺されていることを知った。 すきだと思ったのはいつだったか。 おぼろげに残る映像は夏の重苦しい空気、耳障りな蝉の声、グラウンドの土埃のにおい、そして肌を焼く太陽光線。思えば今でも焦燥に似た思いが阿部の胸を満たす。三橋に触れていなくてもあの手のひらは目の奥に焼きついてきっともう離れない。阿部の手のひらには三橋の手の角張った骨の感触さえも本物のように残っている。それはまるで未だ三橋の手を握っているかのような錯覚を誘うのだ。 (すきだ、) もう一度阿部はそう思って、ゆっくりと瞬きをした。その僅かな間にでさえ、目蓋の裏に現れたのは太陽の下見つけた三橋の姿だった。 (それはきっともう止まれない、) |