体中のあちこちがずしりと重くて三橋はうっすらと目を開けた。目はすっかりと暗闇に慣れていて真っ暗であるはずの部屋の中がぼんやりと霞んで見えた。
急に空ろな夢の世界から現実に引き戻されて頭の中がはっきりとしない。体の右側にしっかりと榛名の体温を感じるのに、なぜか三橋は体の真ん中が空洞になっているような気がした。

三橋は榛名を起こさないようにそろりとベッドから這い出した。普段ユニフォームで隠れて太陽の下にはさらされない白い足を伸ばして床に着地する。フローリングの床には2人分の衣服が乱雑に脱ぎ捨てられていて否応にも三橋はその原因となったことを思い出すことになった。

三橋は抵抗した割りにあっさりと喰われた自分を恥じた。いつも後悔するのは三橋ばかりで頭の回転が止まった榛名はただ求めることしか知らない。

榛名は本当になにも知らないのだ。三橋が全身の気だるさを逃げ出したくなるほど恐れていることや榛名に何ひとつ痕を残せないままするりと手を離されるかもしれないと恐れていることを。

三橋の目の前には投げられたままの榛名のシャツがあった。三橋は榛名がシャツを羽織る様がすきだったが同時に何事もなかったかのように服をまとっていく榛名を憎らしく思う。自分ばかりが傷を残される焦燥感と圧迫感。最早三橋を取り巻く感情は榛名が手を伸ばして届くようなところにはなかった。

榛名が目を覚ました気配がした。三橋は小さくなった肩を少し揺らして息を止めた。空気を裂いて伸びてくる手が近づいてくるのを感じながら。

(そして榛名はいつも通りに白いシャツを着るのだ。三橋の汚れをひとつも残すことなく。)