「沖田さん、」
「ん、」
「すきです、」
「は、」
「すきです、」

縁側に座ってぐだぐだしている自分の隣に珍しく山崎が何も言わずに座っているなあと思っていたらいきなりそう切り出された。一体どうしてこんな話をされているのか意味がわからなくて真意を探ってやろうと山崎の目を見たが真意を探ろうにも山崎の視線は庭の草花の間を飛び回る蝶に釘付けで全く合わない。もしかして春だから山崎もおかしくなってしまったんだろうか、いや、元から少しおかしい奴だったがさらに頭のねじをどこかに忘れてきてしまったんだろうか、そうだったら探しに行ってやらないといけないかもしれない。
そう思っているとどうやって自分の思考を読んだのか、別に春だからって頭がおかしくなってるわけじゃないですよ、と相変わらず蝶に視線を釘付けにしたまま山崎が言った。頭のおかしい奴は自分で自分がおかしいことに気づけるもんじゃないだろうと思いつつ、ああそうかィ、としか言えなかった。正直それくらい動揺していた。なにが嬉しくて男なんかに、しかも山崎なんかに告白されなければならんのか。全くもってわけがわからない。

「突然思ったんです、言わなくちゃって。自分でも不思議なんですけど、今しかないって思ったんです。」
「俺がすきだってかィ、」
「まったく変な話ですよね。すみません、」
「はあ、まあ、」
「沖田さん、」
「ん、」
「死なないで下さいね、」

いよいよ本当に山崎の言いたいことがわからなくなって頭を抱えたくなった。どうして自分をすきだというのが死なないでという発想につながるのか。見れるものなら山崎の脳みそを開いてその難解な思考回路をどうにかして解明してやりたい。返す言葉が見つからずに絶句している自分に気づいたのか山崎が慌てて口を開いた。草花の合間を優雅に踊る蝶はもうどこかへ行ってしまっていたが、しかしやっぱり視線は合わないままだ。

「あ、これも突然思っただけで、特に意味はないです。すみません、」
「じゃあ、なにかィ、俺は山崎のために生きなきゃなんねェのかィ、」
「いや、あの、なんていうか、」
「なんでィ、」
「いやですか、」

問われて正直わからなかった。山崎が突然言い出した話には全くついていけてなかったが意味がわからないだけで不思議といやではなかった。まあよっぽど変な人間からでない限り好意を示されるのは誰だってきらいじゃないだろう。自分でもさっぱりだが、もしかしたら気づかないうちに自分も春のせいで少し頭がおかしくなっているのかもしれない。もしくは山崎のせいだ。

「別にやじゃない、と、思う、」

自分の言葉に首をひねりながら途切れ途切れに言うと、ほんとですか、と山崎がえらく嬉しそうな顔をして勢いよくこちらを向いたから驚いた。さっきまで全くこっちなんて見ようとしなかったくせに。そういえば今日初めて目が合った気がする。やっとこさで合った目をきらきら潤ませて笑う山崎は正直気持ち悪かったが、やっぱりどうしてだかいやな気持ちはしなかった。自分のことではあるがまったく難解だ。もしかしなくても春の日和に毒されているのかもしれない。いややっぱりここは全部山崎のせいにしておこう。