重苦しい空気が体にへばりついてうまく前に進めない。
どろりとするそれは、まるで水のように重い。

ああ、と思う。

汗は容赦なく額から流れ、拭っても拭ってもすぐに溢れてくる。頭上ではさんさんと当たり前のように太陽が輝いていて、見上げると眩しい光が目を焼いた。

ああ、なんて炎天下。

いつもよりきつめの視線で太陽を睨んでみたが、なにかが変わるわけもなくただ蝉の鳴く声が聞こえるだけだった。それはなにかを訴えるように、しかしただのいたずらのように耳の中を侵す。

うるさい。

口の中で軽く舌打ちをする。こんなことなら自転車で移動をすればよかった。駅からだらだらと歩いている間にすっかり脳が暑さで溶けてしまったようだ。

でも、と思う。

でも三橋はきっと待っている。
流れる汗に構うことなく頬を薄紅色に染めてただ自分の到着を待っている。三橋が今この瞬間に睫毛を伏せてしまったらそれはうだるような暑さや耳を刺す蝉の声ではなく自分のせいだ。
まちがいなく。

三橋。

名前を呼ぶだけで体中の血液が逆流してしまいそうになる。
今すぐに三橋にふれたいと思った。

もう一度太陽を睨みつけて、さっきまでだらりと動かなかった足で地面を蹴った。
どうか三橋が悲しみませんように。重苦しい水の中でも泳いでしまえばなんてことないという当たり前のことをぼやけた思考の隅で思った。

(ああ、君を抱きしめられるならなんだって!)